おとなの楽しい童話時間

幸せスイッチオンにするハッピー物語

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千鶴 ―月夜の蛍―

小川の水は コポコポ 歌い

オオバコの葉は 夜風にのって ユラユラ おどる

夏の夜は 数えきれない たくさんの ゲンジボタルの時間です



千鶴up2


ゲンジボタルの千鶴は、夜空に浮かぶまん丸い光に向けて

おしりのランプをチカチカと光らせました。

「早く私に気付いてください」

チカチカ チカチカ

「この夜でもう10日になります」

チカチカ

「どうしてこちらに来てくださらないのですか・・・」

もう2時間もしたら太陽の昇る時間です。

「どうして夜の間しかお会いできないのですか・・・」

夜空に浮かぶまん丸い光は、千鶴のほうへ近付いてくるどころか、

日に日に、かけていくようにも感じられました。



遠く東の山ぎわに、朝日が顔を出しました。

千鶴は羽をブルブル震わせて、体についた夜露を払うと、

夜中留まっていたオオバコの葉の裏へ、ひと休みをしにいきました。



千鶴は、夜のあいだずっと見つめていた

夜空に光る彼を思い出して、

こころがぎゅーっと締め付けられるのを感じました。

おしりのランプをつけたり けしたりして、

大きく息を吐くと、ようやく気持ちが落ち着いてきました。



千鶴の休んでいる、オオバコの葉がゆれました。

「おはよう 千鶴」

「お小夜ちゃん おはよう」

お小夜は、千鶴の幼なじみのゲンジボタルです。

うっとりとした顔をしている千鶴を見上げて、言いました。

「そんなにあの彼といっしょになりたいなら、

彼のところまで自分から飛んでいけばいいのに」

千鶴は、とんでもないという顔でこたえました。

「そんなこと・・・わたし」

「千鶴、私たちに残された時間は、もうわずかしかないのよ」

「・・・・・・」



さなぎから羽化した成虫の蛍は、だいたい14日間生きることができます。

その間に、お尻を発光させながら綺麗な川辺を飛び回り、

パートナーを見つけて産卵するのです。



その夜、千鶴は羽化してから初めて、たくさんの仲間が飛び交う

上流までやってきました。


さなぎから羽化したばかりの千鶴が、

初めて夜空に輝く彼と出会ったのは、

下流付近でした。

彼は、空の高いところで誰よりもまん丸く光り輝いていました。

千鶴はその姿に一瞬で心を奪われてしまったのです。

その日から10日の間、千鶴は彼だけを見つめてきました。

それだけでもう、自分が生まれてきたことの意味を

強く感じることができたのです。


「彼、今夜は姿が見えないわね」

おしりのランプを消したまま、草の上で空を見上げていた千鶴に、

お小夜が心配して声をかけました。

「ええ、昨日まであんなに明るく光ってらっしゃったのに・・・」

「なんだか雨でも降りそうな天気ね

千鶴、せっかく仲間のところへ来たのだから

ランプを照らさないと、殿方に気付いてもらえないわよ」


お小夜がおしりのランプをチカチカ点滅させると、

それを合図に周りのホタルもチカチカとおしりを光らせました。

「ね、こうすれば、たくさんの殿方と知り合う事ができるのよ」


「ごめん お小夜 せっかくここまで連れてきてもらったけど、

私、彼以外のためにランプを照らす気にはどうしてもなれないの。

もう川下へ帰るわね。おやすみなさい」



お小夜は、川下へ向けて少しずつ遠ざかっていく幼なじみを、

悲しそうな顔で見送りました。

しばらくして、ポツポツと雨が降り出しました。

『10日ぶりの雨だわ・・・』



10日ぶりに降りだした雨は、3日間降り続きました。

その間、夜空に輝く彼は、一度も姿を表しませんでした。

『もしかして、もう他のホタルといっしょになってしまったのかしら・・・』

彼のいない雨空を見上げた千鶴の目から、ボロボロと涙があふれだしました。

『こんなことなら、いつまでも待っていないで、

思い切って彼のところへ飛んでいけばよかった』

千鶴はオオバコの葉の上で、彼を待って3日間、夜中雨に打たれ続けました。






そして、14日目の朝、千鶴は自分の命が終わりに近付いているのを感じました。






その夜

小川の水は 音もなく流れ

オオバコの葉は 深緑色に染まり

空を覆っていた 黒い雲が 少しずつ風に流されました

姿を表した月の光に照らされて 川に映ったオオバコの葉が

音もなく ゆらりと揺れました

一途なゲンジボタルの女の子が おしりをチカチカと光らせて

夜空へ向け 飛び立ちました



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