おとなの楽しい童話時間

幸せスイッチオンにするハッピー物語

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『青いクレヨンがなくっちゃ』

青いクレヨンがなくっちゃ①

明日は海で楽しいお絵かき会です。
ねずみのポット君は海もお絵かきも大好きです。

「画用紙と、水筒と、おやつと、それから・・・」

カバンに荷物をつめながら、ポット君の頭の中は青くてきれいな海のことでいっぱいです。
そして大切なクレヨンの箱を手に取ると、そっとフタをとりました。

「あれ!?青いクレヨンがない!」

青いクレヨンがなくっちゃ、海の色はどうするの?

「ねえねえボタンちゃん、お兄ちゃんの青いクレヨン知らない?」
「青いクレヨンってこれのこと?」
「あー!!!」

ポット君の大切な青いクレヨンは、弟のボタンちゃんにかじられてボロボロ。
「お兄ちゃん、これってあんまり美味しくないね」
「あたりまえだろ!」
ボタンちゃんの手から、クレヨンをひったくりました。

びっくりしたボタンちゃんは、ひっくひっくと今にも泣き出しそう。
ポット君の目からも涙がこぼれそう。

「あらあら」
ポット君とボタンちゃんのお母さんがやってくると、
青いクレヨンと泣き出しそうな二人の顔を見て、困った顔。
「よしよし」
といいながら二人の背中をポンポンとたたきました。


その夜、ポット君は青い海のことを考えて、何度もふとんの中で寝返りをうちました。
『青いクレヨンがなくっちゃ・・・』


朝、目を覚ましたポット君は、もう一度、そーっとクレヨンの箱を開けました。
『やっぱりない・・・』



今日はまさにお絵かき会日和。
太陽がさんさんと輝いて、海も空も真っ青。
ねずみの子供たちはひとしきり波打ち際で遊ぶと、砂浜に座って海の絵をかき始めました。

影1①


ポット君は、海に背中を向けると、みんなと少しはなれたところに座りました。
『青い海なんてみたくない』

ザザー ザザザー

波音と潮風が、「こっちを見て」とばかりにポット君の背中をくすぐります。



どのくらい時間がたったのでしょうか、
「できた!」
「わたしもできた!」
後ろのほうからみんなの声が聞こえてきます。

「ポット君みせて!」
みんながやってきて覗き込むので、ポット君はあわてて画用紙を隠すと、
「あと少しかな。完成するまで待っててね」
ニコッと笑っていいました。
「ふーん、じゃあまた明日見せてね」
「うん」

ため息をつくと、クレヨンの箱を少しだけ開けて、すき間から中をのぞきこみました。
やっぱり、青いクレヨンのところだけ、ポッカリと空いています。

影2①


砂浜に伸びるポット君の影が、少しずつ長くなってきました。

「絵もかけたし、そろそろ帰る?」
「そうだね。風も冷たくなってきたし」
「ポット君も一緒に帰ろう?」
「ううん。僕、もうちょっとだけ、描いていくよ」

みんなはポット君に手を振ると、完成した絵を持って帰っていきました。

影3①


砂浜に伸びるポット君の影は、ますます長くなり、

ザザー ザザザー

波音と潮風が、「お願い、こっちを見て」とばかりに背中をなでます。
ポット君は、目から涙がこぼれそうになったので、ゴロンと仰向けに寝転びました。
すると・・・


ポット君はあまりの眩しさに思わず目を細めました。
海は、今まで見たこともないほど、キラキラ キラキラと輝いています。
さっきまで真っ青だった、海も、空も、ポット君の顔も、今はすっかり夕日色。


夕焼け①




青いクレヨンがなくたって!

僕の海は夕日色でいいんだ!

元気を取り戻したポット君。ひょいっと起き上がると、クレヨンの箱を開けました。
黄色や赤、橙色に桃色、それから白・・・たくさんの色が必要です。

夕日色の潮風を、鼻から胸へ吸い込むと、
目をキラキラさせて、画用紙いっぱいに海の絵を描きはじめました。

『早く描かないと太陽が沈んじゃう!』
波音と潮風が、「きれいでしょ」とばかりにポット君のほほをくすぐります。


夕焼けでお絵かき①



「ポットくーん」
「お兄ちゃーん」
遠くでお母さんとボタンちゃんの声が聞こえます。

「お母さーん、ボタンちゃーん!」
元気に手を振って答えました。

「見て!見て! 僕の海 きれいでしょ」

「お兄ちゃん すごーい!」
「あら いいじゃない! ポット君の海 とってもステキだわ」



夕日色の砂浜に、長い影がみっつ、仲良く並んで映っていました。


おわり



夜の海①

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ハルくんの桜

ヘビのハル君のコピー2

ヘビのハルくんが、一年で一番悲しい気持ちになってしまうのは、

春、夏、秋、冬、いつの季節だと思いますか?

それは、桜の咲く”春”の季節です。

どうしてハルくんは春になると悲しくなってしまうのでしょうか?




ハルくんは、今まで一度も桜の花の咲いているところを見たことがありません。

その理由は、、、毎年寝坊をしてしまうからです。

ハルくんが、冬眠明けに最初に目にするものは、

木から散った桜の花びらでできた、桃色のじゅうたんです。

そして、花の枯れたさくらの木を見上げて大きなため息をつくのです。




『来年こそは早起きするぞ!

なんとしても、木に咲いている桜の花を見るんだ!』

毎年冬になると、そんな風に気合を入れて冬眠に入るハルくん、、、

しかし、いまだにその願いが叶った事はありません。


青虫とキャベツのコピー2

ハルくんは仲良しのいも虫さんに聞いてみました。

「君たち、桜の花の咲いているところ、見たことある?」

「いいえ、ないわ」

「ハルくんは見たことある?」

「残念ながら、、、僕、毎年寝坊をするので見られないんだ。

桜の花びらのじゅうたんもステキだけど、

桜の木に花が咲いているところは、もっとステキにちがいないよ」

「いいなあ、見てみたいなあ、来年の春が待ち遠しい!」




「ハルくん、来年は早起きして、一緒に桜の花をみようね」

いも虫さんたちが言いました。

「うん、、、」

ハルくんは、自信のなさそうな返事をしましたが、

なんとか気合を入れて、その年も冬眠に入りました。

春の時間に目覚まし時計をかけて、、、

「おやすみ」


ハル君冬眠のコピー2









ハルくんは夢を見ていました。

あたたかい春の陽射しの中、満開の桜の木の下で、

仲良しのいも虫さん達と桜の花を見ている夢です。

嬉しくて、楽しくて、とっても幸せ。

このまま夢が覚めなければいいのに、、、








待ちに待った、春がやってきました!

布団から飛び起きたハルくんは、

顔も洗わずに、期待に胸を膨らませて、

さくらの木のところへ行きました!

「今年こそは!」











ハル君目覚めのコピー2

桜の花は、木から全て散っていました。

どうやら、今年も間に合わなかったようです。

毎年見慣れた桃色のじゅうたんの上で、

ハルくんは悲しそうな顔で桜の散った木を見上げました。

『はあ、、、今年もまた間に合わなかった』

辺りはとても静かです。

仲良しのいも虫さん達も見当たりません。

『一緒に桜を見る約束を守れなかったから、

みんなあきれてどこかへ行ってしまったんだ、、、』


ハルくんは、桜の木の下で、今年も大きなため息をつきました。

すると、、、

ハル君桜1.2

ムクムクムク

ヒラヒラヒラ

フワフワフワ

「あれれ!」

地面いっぱいに広がった桃色のじゅうたんが、

風もないのに一斉に空中へと舞い上がりました。

そして、あっというまに!

ハル君桜2のコピー2

「桜の花が咲いたよ!!!」


「おはよう!ハルくん!」

「桜の木がしゃべった!」

ハルくんはビックリして、ひっくり返りそうになりました。


クスクスクス

「おどろいた?」

「私たち、ハルくんに何とかして桜の花を見せたかったの」

「ハルくん、桜の花、とってもきれいだったよ!

でも、私たちだって負けてないと思うわ」

「ハルくんどう?おどろいた?おどろいた?」

枯れ木に桜の花を咲かせたのは、桜の花びらを羽に乗せて

自ら桜の花に変身した、たくさんの蝶の群れだったのです。

「でもどうして、、、ぼく、蝶のお友達なんていたかな?」

ちょうちょうのコピー2

「私たちが誰だか、わからない?」

もちろん、みなさんはもうわかっていますよね。


今年は、ハルくんにとって、忘れられない、

幸せいっぱいの、特別な春になりました。


ところで、ハルくんの幸せいっぱいの笑顔を見て、

蝶のみんなはどんな気持ちになったかわかりますか?


実は、ハルくんよりも、もっともっともーっと、

嬉しい気持ちでいっぱいになったのです。


私たち、ハルくんっていう友達がいて、よかったな・・・

嬉しいな・・・


おわり

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冬ごもり

冬ごもり2

秋の日の夕暮れ時、クマが一人、公園のベンチに座っていました。

公園の前の道を、友人のカモシカが通りがかりました。



「やあ、クマ、こんなところで、何をしているんだい」

「やあ、カモシカ、私、明日からしばらく冬ごもりするもんだから、
公園のベンチに座るのも今年はこれが最後なんだ」

「そうか、クマは、公園のベンチが好きだものね」

「そうなんだ」

「冬ごもりする岩穴は、どんな心地なの」

「うん、笹の葉も、木の皮も、枝も、今年はたっぷり敷き詰めたから、いい心地でこもれると思うよ」

「へぇ、いい心地かぁ、それなら、安心して、春までこもれるね」

「それが、そうでもなくて、今年はなんだか、気持ちがソワソワしてしまうんだ」

「どうして、気持ちがソワソワしてしまうの」


ベンチ2


クマは、公園の後ろの山を見上げて、ため息をつきました。

「うん、例えば、私が岩穴で、一回寝返りをしたときに、
カモシカは、真っ白なオコジョと友達になっているかもしれないでしょ」

「うん」

「それから、私が岩穴で、次に寝返りをしたときに、
カモシカは、綺麗なスイセンの花の香りをかいでいるかもしれないでしょ」

「うん」

「それから、私が岩穴で、次の次に寝返りをしたときに、
カモシカは、山の斜面で、初日の出をみているかもしれないでしょ」

「うん」

「私も、冬の間ただ眠ってばかりいないで、カモシカみたいに、
白いオコジョと友達になったり、スイセンの香りをかいだり、初日の出をみたりしたいんだ」

「なるほど、クマ、そんな事を考えていたんだね」

「うん、だから私、毎年ただ冬ごもりしてていいのかなって、、、そう考えるとソワソワしてしまうんだ」


枯葉2


冷たい風が吹いて、枯れ葉がベンチの下でクルクルとまわりました。

「ねえ、クマ、冬ごもり、やめるとどうなっちゃうの」

「まだやめたことないのだけれど、多分、寒くて、食べるものもないから、雪の中で、凍えて、動けなくなって」

「うん」

「私の春は、永遠にやってこない、ということになると思う」

「えっ、、、わたし、来年もクマと二人、桜の木の下で、美味しいビールが飲みたいな」

「私もだよ、だからそのためには、冬ごもりをしないといけない」

「クマ、君にはどうしても、冬ごもりが必要だね」

「でも、どうしても、ソワソワしちゃう」

「うん、冬の間に何もできなくて、クマがソワソワするのは、無理もないことと思うよ、でも、それはしようがないことさ」

「しようがないことか」


街灯2


日が暮れて、公園の外灯にあかりがつきました。

「うん、、、そうだ、クマ、冬ごもりしながら、春になったら何がしたいか、考えるっていうのはどうかな」

「春になったら、なにがしたいか、、、」

「うん、たとえば、ふきのとうを探したり、ウグイスの声を聴いたり、モンシロチョウをおいかけたり、、、」

「桜の木の下で、カモシカと春の歌を歌ったり、、、ああ、とっても楽しそうだ」

「冬ごもりの間、楽しみな事を考えたら考えただけ、来年の春はきっと、いつもの年よりもっともっと楽しくなる」

「カモシカ、君の言う通りかもしれない、私、春になるのがすごく楽しみになってきた。今年も冬ごもり、しっかりやることにする」

「うん、しっかりね、春が来たら、また会おう、クマ」

「うん、春が来たら、また会おう、カモシカ」



カモシカは、星空の下、帰っていきました。

クマはカモシカを見送ると、ベンチを立って、夜の公園をあとにしました。



クマが冬ごもりをはじめてしばらくすると、霜がおりて、川が凍り、本格的な冬がやってきました。

カモシカは、白いオコジョと友達になり、スイセンの香りをかぎ、初日の出を見ていました。

クマは、岩穴の中で、春に訪れてほしい、ステキな出会いや、幸せについて考えていました。
そして、何かあたたかいものにつつまれたような、たんぽぽ色の夢をみていました。





春、公園の桜の木の下に、カモシカと、オコジョが座っていました。

ビールを三本用意して、二人が楽しみに待っているのは、もちろん、、、


桜2


桜の花びらがヒラヒラと舞い落ちて、

遠くから、クマの楽しそうな鼻歌が、聞こえてきました。


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雲つぶのぼうけん

雲つぶのぼうけんup用2

空に浮かぶ雲は、『小さな雲つぶ』がたくさんくっついてできています。



地上7,000メートル、風のない、おだやかな空の中を、

小さな雲つぶが一個、地上に向って落ち始めました。

雲つぶは、先ほどまでひつじ雲の中にいたのですが、

強い風が吹き抜けていったせいで、

雲の外へ吹き飛ばされてしまったのです。

ひつじ雲2


雲つぶは、自分が浮かんでいた上空を見上げました。

もこもこと漂っていたひつじ雲は、

先ほどの風に乱されて、その姿を変えていました。


「このままただ落ちていったら、ボク暖かい空気に触れて蒸発しちゃう・・・」


雲つぶは、強い風が吹いていった先を、

ユラユラと落下しながら見つめました。

風は、遠くの高い山に勢いよくぶつかったようです。

見ていると、山の中腹にもくもくと大きな雲ができて、

それがみるみるうちに上へ上へ伸び上がっていくのがわかりました。

そしてあっという間に、山の頂上を越えて、

巨大なにゅうどう雲が出来上がったのです。

にゅうどう雲2


「なんて立派な雲!ボクもあの雲みたいになりたい!」

雲つぶは、初めて見る巨大なにゅうどう雲に、

胸が高鳴るのを感じました。

「とにかくあの高い山のところへ行こう!

そうすればボクも、あの立派な雲になれるかもしれない!」

まわりの空気はまだまだ冷たかったので、

蒸発する心配はありません。

ゆっくりと落下している最中に、

今度は山の方へ向かう小さな風が吹いてきました。

雲つぶは風に乗って、少しずつ山の方へ流れて行きました。

「だいぶゆっくりだけどこのまま行けば・・・」


ところが、しばらくすると小さな風は消えてなくなり、

雲つぶは、また風のない空をゆっくりと落ちていくことになりました。

「せっかくあの大きな雲に近付いたと思ったのに」

がっかりしたのもつかの間、今度は下から上へ風が吹いてきました。

「わわわ!」

ゆっくりゆっくり上昇して、雲つぶはいつの間にか、

地上10,000メートル、うろこ雲の中にいました。

うろこ雲の中はとても寒く、雲つぶは冷やされて氷の形に

姿を変えていました。

うろこ雲2


「寒いよう。こんなに高いところまできちゃったよ」

目指す高い山は、はるか雲の下にありました。

「これからどうしよう」

こんなときに限って、風が吹いてくる気配はありません。


すると今度は、大きな飛行機が飛んできました。

飛行機は山の向こう側にある空港へ向けて、

少しずつ高度を下げて飛んでいました。

「やった!」

雲つぶはうろこ雲をくぐって進む飛行機の羽に、

ぴったりと張り付きました。

そして飛行機と一緒に、

うろこ雲の中から抜け出すことに成功しました。

「山の上まで行ったら、飛行機から離れよう」

飛行機はあっという間に山の上空まで来ました。

「今だ!」

飛行機2


飛行機の羽を離れた雲つぶは、そのままゆっくりと下へ落ちていきました。

幸運なことに、タイミングよく上から下へ風が吹いてきたので、

雲つぶは、あっという間に山に降り立つことができました。


しかし、山肌は思いのほか乾燥していて、雲ひとつありませんでした。

乾いた空気に唖然として、雲つぶはどっと疲れてしまいました。

「やっとの思いでここまできたけれど、

こんなんじゃとても雲にはなれないや。この山に来れば、

ボクもあの立派な雲になれると思ったのに」

雲つぶが途方にくれていると、突然、地面が上へ持ち上がりました。

「うわ!」

雲つぶが山の地面だと思って降り立ったのは、

そこに暮らす鳥の羽の上だったのでした。

鳥は大きく羽を羽ばたかせて、ピューッと、

山のふもとへ向けて一気に飛んでいきました。

突然の事にビックリした雲つぶは、

鳥の羽から降りることができず、

山の下のほうまで、運ばれてしまいました。

そして、暖かい空気に触れると、

鳥の羽の上で瞬く間に蒸発して消えてしまいました。

『ボクはただ、立派な雲になりたかっただけなのに・・・』

雲つぶは、山のふもとの空気にしみ込んでいきました。















次の日の朝、空はきれいに晴れ上がりました。

日の出と共に、山へ日の光が照り付けました。

気温はどんどんと上がってゆき、雲つぶの溶け込んだ山肌の空気も、

一気に暖められました。

暖かく、軽くなったたくさんの空気が、

一斉に空へと昇りだしました。


そして、しばらくすると、

あの雲つぶが、憧れていた瞬間がやってきたのです。

もくもくもく もくもくもく

太陽にあたためられた山の空気が、空の上で冷えて、

雲へと形を変えだしました。

もくもくもく もくもくもく

日が高くなればなるほど、日差しも強くなり、

雲は上へ上へと伸び上がっていきました。

そしてあっという間に山の頂上を越えると、、、



巨大なにゅうどう雲が出来上がったのです!







「う~ん、よく寝た」

自分が何か大きなものに包まれている気がして、

雲つぶが目を覚ましました。

「あれ?ボク、また元の姿に戻れたのかな・・・

ここはどこだろう?」

不思議そうに周りを見渡した雲つぶは、すぐに、

自分が今いるところがどこなのか気が付きました。

雲の中2

雲の中をフワフワと浮かびながら、

「すごい!ついにボクも、あの立派な雲になることができたんだ!」


太陽のひざしはますます強くなり、

巨大なにゅうどう雲の成長は、とどまる事を知らず、

もくもく、もくもくと空の上へ広がり続けました。

おわり

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千鶴 ―月夜の蛍―

小川の水は コポコポ 歌い

オオバコの葉は 夜風にのって ユラユラ おどる

夏の夜は 数えきれない たくさんの ゲンジボタルの時間です



千鶴up2


ゲンジボタルの千鶴は、夜空に浮かぶまん丸い光に向けて

おしりのランプをチカチカと光らせました。

「早く私に気付いてください」

チカチカ チカチカ

「この夜でもう10日になります」

チカチカ

「どうしてこちらに来てくださらないのですか・・・」

もう2時間もしたら太陽の昇る時間です。

「どうして夜の間しかお会いできないのですか・・・」

夜空に浮かぶまん丸い光は、千鶴のほうへ近付いてくるどころか、

日に日に、かけていくようにも感じられました。



遠く東の山ぎわに、朝日が顔を出しました。

千鶴は羽をブルブル震わせて、体についた夜露を払うと、

夜中留まっていたオオバコの葉の裏へ、ひと休みをしにいきました。



千鶴は、夜のあいだずっと見つめていた

夜空に光る彼を思い出して、

こころがぎゅーっと締め付けられるのを感じました。

おしりのランプをつけたり けしたりして、

大きく息を吐くと、ようやく気持ちが落ち着いてきました。



千鶴の休んでいる、オオバコの葉がゆれました。

「おはよう 千鶴」

「お小夜ちゃん おはよう」

お小夜は、千鶴の幼なじみのゲンジボタルです。

うっとりとした顔をしている千鶴を見上げて、言いました。

「そんなにあの彼といっしょになりたいなら、

彼のところまで自分から飛んでいけばいいのに」

千鶴は、とんでもないという顔でこたえました。

「そんなこと・・・わたし」

「千鶴、私たちに残された時間は、もうわずかしかないのよ」

「・・・・・・」



さなぎから羽化した成虫の蛍は、だいたい14日間生きることができます。

その間に、お尻を発光させながら綺麗な川辺を飛び回り、

パートナーを見つけて産卵するのです。



その夜、千鶴は羽化してから初めて、たくさんの仲間が飛び交う

上流までやってきました。


さなぎから羽化したばかりの千鶴が、

初めて夜空に輝く彼と出会ったのは、

下流付近でした。

彼は、空の高いところで誰よりもまん丸く光り輝いていました。

千鶴はその姿に一瞬で心を奪われてしまったのです。

その日から10日の間、千鶴は彼だけを見つめてきました。

それだけでもう、自分が生まれてきたことの意味を

強く感じることができたのです。


「彼、今夜は姿が見えないわね」

おしりのランプを消したまま、草の上で空を見上げていた千鶴に、

お小夜が心配して声をかけました。

「ええ、昨日まであんなに明るく光ってらっしゃったのに・・・」

「なんだか雨でも降りそうな天気ね

千鶴、せっかく仲間のところへ来たのだから

ランプを照らさないと、殿方に気付いてもらえないわよ」


お小夜がおしりのランプをチカチカ点滅させると、

それを合図に周りのホタルもチカチカとおしりを光らせました。

「ね、こうすれば、たくさんの殿方と知り合う事ができるのよ」


「ごめん お小夜 せっかくここまで連れてきてもらったけど、

私、彼以外のためにランプを照らす気にはどうしてもなれないの。

もう川下へ帰るわね。おやすみなさい」



お小夜は、川下へ向けて少しずつ遠ざかっていく幼なじみを、

悲しそうな顔で見送りました。

しばらくして、ポツポツと雨が降り出しました。

『10日ぶりの雨だわ・・・』



10日ぶりに降りだした雨は、3日間降り続きました。

その間、夜空に輝く彼は、一度も姿を表しませんでした。

『もしかして、もう他のホタルといっしょになってしまったのかしら・・・』

彼のいない雨空を見上げた千鶴の目から、ボロボロと涙があふれだしました。

『こんなことなら、いつまでも待っていないで、

思い切って彼のところへ飛んでいけばよかった』

千鶴はオオバコの葉の上で、彼を待って3日間、夜中雨に打たれ続けました。






そして、14日目の朝、千鶴は自分の命が終わりに近付いているのを感じました。






その夜

小川の水は 音もなく流れ

オオバコの葉は 深緑色に染まり

空を覆っていた 黒い雲が 少しずつ風に流されました

姿を表した月の光に照らされて 川に映ったオオバコの葉が

音もなく ゆらりと揺れました

一途なゲンジボタルの女の子が おしりをチカチカと光らせて

夜空へ向け 飛び立ちました



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